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夢の実現

[2022.03.07]
3月6日、自身11回目となる東京マラソンを走ってきました。
 
結果は3:20:44と、自己ベストを約6分縮めることができました。ほぼ目標通りです。タイム自体は良かったですが、日比谷の交差点を越えてからの34km以降は本当にキツかったです。沿道の応援に応える余裕もなく、自分の視界は目の前の2-3mで完結、思考は「とにかく1kmずつをこなしていけば必ずゴールはやってくる」と、これだけでした。「ここで歩いたらどんなに楽になるだろう」と悪魔のささやきも聞こえてきましたが、しかし私は楽になるため、この半年間努力してきたわけではありません、これまでの自分を超えることを目標に頑張ってきたのです。その瞬間にジ・エンド、負けの烙印が押されるのです。3時間20分という高いレベルので自己ベスト更新ができなかったら負けではなく「諦めたら負け」なのです。
 
丸の内仲通りに入ってからのラスト1kmを切ってからがまた長かった。本当に長かったです。走っても走っても全然進んでいない感覚でした。それでも腕を振ってがむしゃらに走っていたら、ゴールがある行幸通りが見えてきました。コーナーを曲がったところに時計があるのですが、このままでは3時間20分台でゴールできないことに気づきました。ゆっくり走っていたら3時間21分を超えてしまいます。「絶対に20分台でゴールする!この200mを走りきるためにこれまで頑張ってきたんだ」という強い気持ちだけで、最後の力を振り絞ってゴールを目指しました。
 
ゴール通過時にゲートの時計を見る余裕というか、記憶が飛んでいたのでどのくらいのタイムでゴールしたかはわかりませんでした。持てる力を全て出し尽くしたゴール後はフラフラしながらフェンスのとこまで移動し、その場にうずくまって声をあげて大泣きました。もうタイムというレベルを超えて、やるだけのことをやって最後の一滴までエネルギーを振り絞ってゴールした自分の頑張り、そしてこれまでやってきたつらい練習、お世話になった方々、そして何よりも雨の日も風の日もハードなトレーニングに付き合ってくれ、今回のレースで私を引っ張ってくれた妻の脇で人目も憚らず泣きじゃくりました。頑張ったものにしか流せない涙、それはこれまで流したどんな汗よりも価値のあるものでした。
 
私の恩師、小出義雄監督はこう私におっしゃいました。
「いいかい先生、夢はみるものでなく実現するもんなんだ。夢を実現しようと思ったら毎日強くそれを願い続けることなんだよ。僕はね、そうやって夢を全て実現させてきた。Qちゃんだって有森だってメダリストにすることができた。先生もやってごらん、強く願い続けることで夢は実現するから」
レース前、私は妻とともに小出監督の墓前へ行き「監督、必ず夢を実現させてきます!」と報告するとともに、監督にサインを書いていただいたトレーニングウエアの上着を墓石にかけて監督のパワーを頂戴してきました。当然そのウエアは当日持って行きました。これで監督へいい報告ができると思います。ちなみにゴール後、数メートルの距離にQちゃん(高橋尚子さん)と顔を合わせました。何回かお目にかかったことがあるのですが数年前のことゆえ私のことは覚えてらっしゃらないと思いますが、今思い起こしてみると小出監督もQちゃんの脇にいらっしゃって、私の夢の実現の瞬間をご覧になっていたのかも知れません。努力を続けてきて、諦めなくて本当に良かったです。
 
この半年間、この日のために厳しいトレーニングを積んだ甲斐がありました。マラソンは元より、私の人生においてこんなに努力したことはありませんでした。コロナの蔓延、院内、院外でのワクチン接種、発熱外来、100名以上の陽性者のフォローアップ、そして一般診療を行い、毎日寝るのは1時過ぎという生活をずっと続ける中で練習時間を確保し、厳しい体調管理をし、とにかく医者になってこんなに仕事が忙しかったことはありません。しかし仕事の忙しさは絶対に理由にしたくなかった、どんなに忙しくても強い気持ちがあれば結果を出すことをしてみたかったのです。
 
『結果を出してこそ、それが本当の努力。結果が伴わないものは努力とは言わない』という王貞治の言葉があるのですが、これまで積み重ねたものは「本当の、そして本物の努力」だと証明したかったのです。しかも過去の自分を超えることができ、今日は忘れられない一日となりました。
 
しかしこれは明日になったら過去のもの。今日の自分自身を超えることをまた自分に課そうと思っております。それが長距離ランナーとしての矜持なのでしょう。
 
 
 

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